掌底は、突きより強かった

龍成塾事務局

空手の打撃といえば、拳を握った突きを思い浮かべる方が多いと思います。けれども私は、手のひらの付け根で打つ掌底のほうが威力があると、以前から体で感じていました。

あらためて海外の研究を調べたところ、突きと掌底の力を実際に測った研究がいくつも見つかりました。結果は、私の実感と同じでした。

5つの研究が測った力

研究者たちは、参加者に力を測る板やセンサーを打ってもらい、当たった瞬間の最大の力を比べています。掌底の力が突きの何倍だったかは、研究ごとに次のとおりです。

測った人(発表年)掌底の力は突きの何倍か
護身術を学ぶ男女91人(2020年)男性1.34倍・女性1.73倍
経験5年以上の男性8人(2022年)1.39倍
経験5年未満の男性47人・女性26人(2022年)男性1.12倍・女性1.60倍
打撃の経験がない男女50人(2021年)男性1.59倍・女性1.23倍
詠春拳の練習者13人(2009年)1.10倍(男女を分けていない)
武道かボクシングの経験がある男性10人(2013年)差なし

※2021年は利き手の値。2009年は、各人の最大値を1として比べた値です。

掌底が突きを下回った研究は、1つもありませんでした。男性でおよそ1.1〜1.6倍、女性でおよそ1.2〜1.7倍です。

なお、どの研究も、測ったのはパッドを貼った板やミット、サンドバッグを打った力で、人の体ではありません。

なぜ掌底のほうが強いのか

研究者たちは、理由を3つ挙げています。

1つ目は、関節の数です。拳には手首や指の骨のつなぎ目が多く、当たった瞬間にそこで力が逃げます。掌底は、前腕から手のひらの付け根まで、ほぼまっすぐに力が通ります。

2つ目は、打つ側の痛みです。手のひらは骨の出っ張りで当たらないので、痛みを気にせず全力で打てます。2022年の研究では、参加者の全員が「掌底のほうが打ちやすい」と答えていました。

3つ目は、当てる場所です。法医学の研究では、多くの人が手のひら全体ではなく、手首に近い硬い部分で当てていました。腕の重さが乗りやすくなるため、研究者は「思っているより強く、危険な打撃になる」と書いています。

掌底なら、寸勁ができる

寸勁(すんけい)は、相手に手が触れるほど近い、0〜15センチの距離から打つ技です。ブルース・リーが1964年にアメリカの空手大会で見せた「ワンインチパンチ」が、よく知られています。2009年の研究で測られたのは、ブルース・リーが香港で学んだ詠春拳の練習者たちでした。

私の経験では、寸勁は掌底で打つとできます。同じことを突きでやろうとすると、ぐっと難しくなります。ブルース・リーは拳で打っていますが、拳で同じ威力を出すのは簡単ではありません。

腕を振る距離がない寸勁では、体で生んだ力を途中で逃がさず、相手まで届けるしかありません。研究者が挙げた1つ目の理由、つまり関節が少なく力が逃げにくいことが、寸勁ではいちばんはっきり差が出るのだと私は考えています。両方で試すと、違いはすぐに分かります。

突きのほうが上回るところ

掌底が何もかも上回るわけではありません。

速さは突きのほうが上です。28の研究をまとめた分析で、掌底は逆突き・順突き・ボクシングのストレートより遅いという結果が出ています。

相手を押し込む量(力積)では、拳が上回った研究があります(2021年の研究と、2022年の研究の一部の組)。

相手のケガは、同じ力で当たれば拳のほうが重くなります。当たる面が小さく、硬いためです。

ただし、掌底なら安全というわけでもありません。2021年の法医学の研究は、掌底でも顔の骨が折れることがあると書いています。

掌底は、突きの代わりではありません。突きと並べて身につける技です。

女性と子どもにこそ、掌底を

私は、骨の細い女性や子どもこそ、掌底を積極的に使えばよいと考えています。理由は、手首から先の骨の細さです。

拳で打つと、衝撃はまず指の付け根の関節に当たり、そこから手の甲の細い骨(中手骨)へ伝わります。拳で硬いものを打って折れる骨としてよく知られているのが、小指側の中手骨の首の部分です。「ボクサー骨折」と呼ばれ、手の骨折の約1割を占めます。

拳は、正しく握れていてはじめて、この骨を守る形になります。献体の腕を使った2015年の実験では、同じ力で比べると、親指で指を固めない拳は、手の甲の骨のひずみが、しっかり握った拳の約1.5倍でした。

女性の手の骨

手の骨の太さは、男女で違います。献体63人分の手の骨を調べた2022年の研究では、手の甲の骨の量(断面積)は、女性が男性のおよそ7割でした。研究者は、この骨が曲げる力にどこまで耐えられるかは骨の量で決まる、と書いています。同じ力が当たれば、骨の少ない女性の手のほうが負担は大きくなります。

子どもの手の骨

子どもの骨には、骨が伸びるための軟らかい部分「成長軟骨板(骨端線)」があります。人差し指から小指までの中手骨では、この成長軟骨板が指の付け根側の端にあります。拳で当てる関節のすぐ奥です。成長軟骨板が閉じるのは、女子で14〜17歳、男子で16〜19歳ごろです。

成長軟骨板は思春期にとくに弱く、子どもの骨折の18〜30%は、成長軟骨板にかかる骨折だと言われています。ここを骨折すると、骨の伸びが止まり、曲がりや長さの差が残ることがあります。

報告によると、思春期の子どもでは、手の骨折の約28%が中手骨の首の骨折です。アメリカの救急外来で治療を受けた17歳以下の武道のけが(推計12万8,400人、8割が空手)では、24.5%が手と手首でした。

掌底なら、手首から先の骨を外せる

掌底で当たるのは、手のひらの付け根です。拳で当てる指の付け根の関節も、そのすぐ奥の成長軟骨板も、当たる面には出ません。手のひらから入った力は、手首の骨を通って前腕へ伝わります。手首から先の細い骨を衝撃の通り道から外せるのが、掌底です。

掌底で気をつけること

掌底にも、気をつける点が2つあります。

1つは、手首の反らしすぎです。手首を強く反らした形で親指側から強く当たると、手首の舟状骨(しゅうじょうこつ)を痛めることがあります。転んで手をついたときに多い骨折で、骨の一部に血が通いにくく、治りにくいことがあります。

もう1つは、当てる場所です。手のひらの、指の付け根に近いところで当たると、平手打ちと同じ当たり方になります。2015年の実験では、同じ力で比べると、平手打ちでは、手の甲の骨のひずみが、しっかり握った拳の約2倍でした(3体分の結果)。

掌底は、手首を反らしすぎず、手のひらの付け根で当てたときに、手を守る技になります。

龍成塾では

これから龍成塾では、掌底を突きと並ぶ技として、稽古で積極的に使っていきます。とくに女性と子どもには、掌底を積極的に使ってほしいと考えています。

硬式空手の試合でも、掌底は正拳突きと同じく1ポイントになる技です。中学生以下の試合では、手を開いた打撃は反則なので使えません。それでも稽古では、手首から先の骨を守りながら思い切り打てる技として使えます。研究者たちも、掌底は初心者にも熟練者にも教えるべき技だと書いています。

拳を握るだけが、空手の打撃ではありません。手のひらの付け根で打つ掌底を、龍成塾の大事な技として磨いていきます。

出典

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